書評『妖怪文藝』巻之壱、巻之二
安史和尚が記す。
「幻想文学」や「幽」の編者、東雅夫<ひがしまさお>の新しい試み「妖怪文芸」が8月から刊行され、9月までで巻之二(全三巻予定)まで出ている。新しい試みというのは、まず、中身は雑誌的なのだが小学館文庫で発刊されていること。(実は文庫は造るのが大変なので、コストを下げにくい。そういう点もチャレンジ・・・あら、小学館文庫ってば上もしたも断裁にかけてるのか、それはまた金がかかること。)また、散逸的単発的な妖怪題材の読み物を編んで、まとめようとすることだ。各巻、違った視点で特集が組まれており(『シバリ』だそうだ)、趣味ながら本作りをする楽しみを持つ自分たちに、非常に強いインパクトを与えてくれる仕上がりになっている。
巻之壱「モノノケ大合戦」は東と京極夏彦の対談の再録からはじまり、妖怪同士の戦い(とはいえ緩い戦いが多いのだが)に焦点を当てている。この本は対象読者も絞り込まれているが、実は明示的に謳っていないものの「モノノケ大合戦」というのは鏡に映したテーマがある。それは「妖怪大戦争」だ。「妖怪」--->「モノノケ」、「大戦争」--->「大合戦」らしい。
見てみれば「モノノケ大合戦」特集に出てくる妖怪はそうでもないが、妖怪単体にフィーチャーした後半に目を向けると、件<くだん>、川姫、小豆洗い、天狗、ぬらりひょん、カラカサ、砂かけ婆、ろくろ首、雪女、猩々、豆腐小僧と「妖怪大戦争」で目に付く役どころにいたモノばかりだ。特に川姫と猩々には作為を感じざるを得ない。
ただし、「妖怪大戦争」とはまた違った切り口で楽しめる。
巻之二「響き交わす鬼」は何となく分かるというものだが、東曰く、"これ(二十九之巻)までの響鬼を愛する皆様には、本書で「仮面ライダー響鬼」という稀有なる作品の素晴らしさを、その懐の深さを、いささかなりと再確認していただけたら幸いに存じます。"(幻妖ブックブログ 2005.09.05 より引用 <http://blog.bk1.co.jp/genyo/>)ということで、まさか東雅夫がと言う感じなのだが、そういうことなのだ。これは嬉しい反面、私とJa-bowでブログでやろうと思っていた「妖怪と魔化魍の接点を探る」ネタをプロの、しかも信頼出来る人がやったという点で、かなり「やられた」感が強い一冊になっている。
土蜘蛛、山彦、蟹、一反木綿、大蟻(ただし日本での話でない。ゴジラの香山滋によるホラー。)、オトロシ(この項にはアミキリやバケガニへの言及もある。)、ヌリカベ(この話は反則だと思うが、面白かった)、産女と成っている。河童、天狗は巻之壱でやったし(笑)泥田坊はこれこそ伝承がないので仕方がない。大首は番組内では動いていないので割愛されたのかこれも伝承がないのか・・・。何よりも間違いないのは表紙が太鼓を叩く赤鬼だってことだ。(構図は火星大王の箱絵のパロディか?)特集での鬼への言及も非常にツボを心得ていて、さすがだというか、そんなところから持ってくるんですかと言いたくなるものが多くて白眉だ。
また、冒頭の対談は司会の東が暴走気味に「響鬼」を語るし、加門七海と霜島ケイは単なるミーハーおばちゃんだし。しかし、同感同感とうなずくところばかりで、これだけでもお腹いっぱいだ。
と言うわけで妖怪好きにはお勧めの2冊になっている。
最終の巻之三は予告では「魑魅魍魎列島」。「金融腐蝕列島」を思い出しちゃったんだが、おそらく何らかの「シバリ」があるのだろう。10月頭に刊行予定だ。
今年は映画で3本、妖怪に関わりのあるモノが掛かったし、それに合わせて書籍も相当数出た(鳥山石燕の『画図百鬼夜行』が文庫で出るなどすばらしい。)ので、妖怪好きには嬉しい悲鳴だが、来年の劇場実写版「ゲゲゲの鬼太郎」の公開に合わせて、各出版社がまだまだ力を入れてくれると嬉しいのだが。かく言う私も財布の紐も緩みがちで、なかなかしんどい。これはきっと妖怪「さんざい」の所為に相違ない。と夢心地に思う。
・妖怪文藝 巻之壱 モノノケ大合戦 小学館 ISBN:4094028374
・妖怪文藝 巻之二 響き交わす鬼 小学館 ISBN:4094028382
(了)
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