「妖怪文藝」巻之三 インプレッション
妖怪文藝巻之三を読んだ。巻之壱、巻之二(2や3に弐や参を使わなかった理由は聞いてみたいなぁ。)は安史和尚が感想を書いたので割愛しよう。今回はディテールや雰囲気よりも個々の作品にハッとする物が多かったような気がする。ではJa-bowはJa-bowスタイルで。
>>「谷地の魔神が自ら歌った謡『ハリツ クンナ』」知里幸恵編訳
自ら退治されたモノが語るという、逆転の発想。謡なので実際は原語の発音で理解出来ることがベターなのだが、その中身だけでもかなりググッと来た。
「魑魅魍魎」石上玄一郎
そして一押しはこの「魑魅魍魎」。あらすじを読めば「はい、そうでしたか」で済むような話だったが、後半荒天になってからの百物語前後の風景描写がすばらしい。話の畳み方も個人的には意表をついた仕舞い方で、やられたと思った。
「屋台の客」東郷隆
以前知り合いにNHKアーカイブスの新日本紀行だかを見せられた。うっそうとした林の絵を見ているときに、
「(ここなら妖怪は)居るよね」
と言われたのを思い出した。今も実家の傍ならまだかろうじて妖怪は出ると思う。今の住まいの傍は都会の近辺にもかかわらず田舎風景なのだが、街灯が完璧な所為か気配はない。しかし、この話を見ているとまだ鎌倉、湘南あたりには出そうだなと思った。(西岸良平の『鎌倉物語』の様なことはないだろうが。)女将のハキハキした感じがリアルであり、だからこそ居る感じが非常に強い。(ただ、大雪の日は出そうな気配があるけどな。)
「幽霊と化けもの」小泉八雲/平井呈一訳
小泉八雲はまごうことなき妖怪小説の第一人者だが、このスタイルのモノは初めて見た。非常に面白い。特に最後の話はありそうな人情モノベースの怪談だが、まさしく「身につまされた。」
「風の神」内田百けん
こういう話をさらりと書いてしまうのだから、やはり百けんは凄い。連れてくるのは確かに怖いが、「小豆とぎ」(まぁ今回、狸だが)が着いてくるとは思わなんだ。ショキショキ。
「南と北」火野葦平
3通目あたりで間違いなく目論見が分かるわけだが、それは失敗ではなく、仕掛け通りなのだろう。妖怪だけでなくこれもまた別な意味で身につまされる話だった。意思疎通って大変。
「日本漂流」小松左京
小松左京の妖怪譚はこれで読むのは2作目。「件」は少しホラーテイスト、今回のモノはSFっぽい感じ。何かを思い出したが何かは内緒。
「鵺」白洲正子
鵺の幽霊を描くというのは「谷地の魔神」と通じるモノがある。だが、坊さんに成仏させるというのはどういう意図があったのだろうと思った。
「ノツゴ」水木しげる
小説でも確実に水木節だ。最後のオチも水木っぽいが良い感じである。ノツゴというとひだる神と同一視していたのだが少し考えを改めた。ただ・・・。
巻之三でネタが切れないか心配した。(一部、反則があるのだが、そこまで目くじらたてないのも妖怪の良いところ)が、むしろシバリがないために、「優良な作品がまだまだある。」というか、妖怪文学はある意味日本文学の主流にあったのだと再認識した。
自分は妖怪モノを書いたことがないが、妖怪小説を今度、安史にたきつけてみようっと。
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