「邪魅の雫」インプレッション
そうかそういうことだったのか。鈍いなぁ。<オレ
「塗仏」の後に何故「陰摩羅鬼」で「邪魅」なのか、本作を読んで一人で合点してしまったのだ。それは私の"世界"の話で"世間"や"社会"で通用するのかは解らないが、やはり「塗仏」で終わっていたのだ。しきり直しなのだと。
妖怪好きや読んでいる人には分かるが、「陰摩羅鬼」は鳥の意匠を持ったお化け、これは「姑獲鳥」に共通するものだ。「邪魅」は邪なる魑魅・・・「魍魎」とは違うが対のような関係で係わりがある。「陰摩羅鬼の瑕」は読了後、話の根底にあるもの何となく「姑獲鳥の夏」を思い出させる程度に思っていたが、今作では「邪魅」の講釈を京極堂がすることさえないし、関口がいつになく普通の人ではないし、榎木津さえおかしいのだが、ヒーロー京極堂、最終兵器榎木津の構造だけはかろうじて保たれていて、京極堂シリーズたり得る物語になっている。そうそう「邪魅」は「魍魎の匣」だったか、なにか他の話の時に講釈をしてしまったので、関口が口走る事で済ましてしまったのだろう。
その程度の了解なのだが、何故か合点してしまったのだ。だからかも知れないが、ここのところいつも書かれていた表紙カバーの見返しには、次回作タイトルは書かれていない事が気になる。(2006.10.03追記、書籍自身の京極堂シリーズリストの最後に「鵺の碑-いしぶみ-」との表記有り・・・鵺かぁ。鵺って言えば・・・)次作が既作のどれかと対になるのかならないのかは解らないのだけれども、単純に印象でそう思っただけなのだ。「陰摩羅鬼の瑕」から2周目だと。
さて、今作は前作と違い、京極堂シリーズ以外のとのつながりを持つことでの効いてくる仕掛けが見えない。「陰摩羅鬼の瑕」は横溝正史を出してみたり、巷説百物語などとのつながりをほのめかしたり、切り売りされた時の遊びをそのままに入れていたところが気に障ったのか全体に文が荒れている感じがしたのだが、今作はそんなことはない。それに整理すれば割に簡単な構造の事件なので半分も読めば事件の構造は解るし、発端も解るのだが、その中で右往左往する人の有様が面白いし、前半の憑物落としで「面白くない本など無い」と言う京極夏彦の持論を中禅寺が代弁してみたり、ちょうど今自分がはまっている事へのヒントとなることがあったりして興味深く、楽しく読んだ。
しかし、一旦終わった(区切りをつけた)話の、すきまを埋める話ではなく、2周目の続編が続くことに関しての意味は余りよく解らない。京極堂シリーズは一度行き着くところまで行ってしまった(最強の敵、堂島を出してしまった)ので、それ以上のものが見られるかどうかは私には解らなくなっているのだ。もし対にして作るならこの後、どれだけ待たねばならないのかと思うと・・・この選択が良いのか悪いのか私には解らなくなってしまったのだ。
それでも次作が出れば読むと思わせるだけのものは出来ていた。
個人的にはむしろ、他の切り口として、サブシリーズである薔薇十時探偵社シリーズや、新書で前巷説百物語は早く読みたいと思っているのだが、更に踏み込んで京極夏彦のもっと違う形ので「妖怪普及活動」も見てみたいなと思う気持ちが強くなってきたので、その所為で不安を感じているのかも知れない。
いや、単純に「京極夏彦」を失いたくないだけなのかも知れない。このまま保存していたいだけなのかも知れない。キズが付く前に。頼もしい、面白い「京極夏彦」の紡ぐ話を。
今作はこのままの作劇法の意図では映像化不能である。いや出来なくはないがやってしまったらつまらないだろう。ギリギリ、マンガなら良いかもしれないがアニメや実写ではこの話の一番キモが構成要素として機能しない。「デスノート」原作のラストシーンを映像でやることの意味の無さと同じだと言って分かる人が何人いるのか解らないが、小説だからこそ、面白い話なのだ。京極夏彦の話はそんな話が多い。映像化は単なる解釈の結果しか現さないから、無理なんだろう。そんな言い訳もなんだかこの話には入っていたような気がする(笑)「姑獲鳥の夏」も原作と同じ楽しみ方は最初っから不能だったわけだ。
今作は京極堂シリーズのファンにはお勧めだ。「陰摩羅鬼」で挫けた人も楽しめる人が多いのじゃないかな?
せめて1年に1作出るならば着いて行けそうなのだが。
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