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2006.12.13

「硫黄島からの手紙」の真価とは

 「硫黄島からの手紙」が米映画批評会議最優秀作品賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞最優秀作品賞を受賞、アカデミー賞の前哨戦である賞のノミネートにことごとく上がっており、日本のマスコミの鼻息が荒い。もちろん、ほとんど全編が米語以外の映画がアカデミー賞を取れば快挙なのだが・・・こういう時は成らないのが最近の常なので、期待はしていない。

 それに映画としての出来の良さよりも題材の良さで選ばれる感じがするのもなんだか。

 そしてとうとう、社内吊り雑誌の広告を見ていて、見つけてしまったのだ。確かに色々な賞を取ってこの映画を見る機会や劇場が増えることは好ましいと思うが、必ず出てくると思っていた。「”名将”栗林中将の物語」と言う輩が。イヤな予感はしていたのだ。

 マスコミにこういう色を付けられてしまうとこの映画の真価は隠れてしまう。もしそれがこの映画の意図を潰すための物だったら本当にイヤらしい行為だし、分からず言っているならなんと馬鹿らしい事か。

 監督自身が語っているようにこの映画は、「戦争がなければ、もう少し生きていられたかも知れない人たちの物語」なのだ。対になる「父親たちの星条旗」は英雄の名を貰って生き延びたけれど不幸だった人たちの話を書いた。虐げられたインディアン男、ブームが過ぎたら就職もままならない男、たとえ寿命を全うして、一見幸せな家庭を築いても、戦争自身のことを子供に語れなかった男と言った面々の物語だ。逆に今作「硫黄島からの手紙」では逆にその戦闘で命を落としていく人間にフォーカスを与え、最後に西郷の微笑みを入れることで対比で際だたせようとしている。

 私が「名将」というのに反応してイヤな気持ちになるのは、「名将」とは何かと言うことにある。普通、「名将」とは軍人というプロフェッショナルが与えられた資源で最大の戦果上げた将、こう思うものだ。

 確かに5日間と言われた陥落期間を大幅に延長して36日も持ちこたえたのは確かに功績であったのかも知れない。しかし、それは2万人を超える犠牲の上に成り立ったもので、この映画が求めている栗林像とは違うものだろう。名将でも知将でもなんとか将でも、それは戦闘指揮官に対しての冠であって、この物語の栗林に枕を付けるのなら「戦争がなければ、もう少し生きていられたかも知れない人」栗林なのだ。

 山本五十六や栗林などエリート達の一部は戦争前に、留学などでアメリカやイギリスを体験していて、戦争開始に反対していたという、しかし、そんな彼らでさえ開戦してしまえば、「国を守るため」という大義名分の上に、ああやらざる得ないところに悲劇があるのだ。「2度有ることは3度ある」を単に美談にしてはいけない。

 彼は映画の中では大本営や海軍をなじるセリフをはいても、玉砕を禁じても、現人神には万歳(もっとも前傾姿勢で苦渋をにじませているのだが、)をし、国のために戦うと生きて帰れると思うなとハッキリと言った。見方を変えれば負けると分かっていて、よしんば勝てても多大な犠牲が出ることを知った上で、2万人の人間を殺してしまった愚将でもあるのだ。

 どんなに弁えて反対していても、巻き込まれてしまっては抗えない。やらざる得ない。その悲劇がこの二つの映画に込められているというのに。だから、「戦争は恐ろしい」のだ。そこを履き違えてはいけない。

 前にも言ったがこの二部作は片方だけでは片手落ちだ。本来ならセットで受賞となるべきだと思う。ただ、単独での受賞しかないなら、物語性が高い「硫黄島からの手紙」となるのだろう。

MSNエンターテーメントの記事
URL= http://event.entertainment.msn.co.jp/pickup/iwojima_pressconference.htm

NIKKEI BPnetの記事
URL= http://www.nikkeibp.co.jp/style/life/topic/movie/061130_iwojima/

NIKKANSPORTSの記事
URL= http://www.nikkansports.com/entertainment/cinema/p-et-tp1-20061212-129224.html

 最初はあんなこと言ったが珍しく来年のオスカーは興味が湧いている。アメリカのアカデミー賞が一国のローカルな賞でない度量を見せて欲しいものだ。

 あともう一つ、この作品は実在の人物や史実を元にしているが、人物描写などはフィクションの手法である。実在の人物がああいう人だったかどうかはまた別の話だ。

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