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2007.04.23

細田版「時をかける少女」DVDインプレション

 DVDの「時をかける少女」を購入して見た人も多いだろう。初見の人もいるだろうし、劇場で見て買った私のような人もいると思う。

 自分も見直して、去年は明確に書かなかった感想を書いてみることにした。

 昨年7月に鑑賞して、知り合いに勧めたりしたが、その後、鰻登りに評価が高まって各種賞を取ったり、単館ロードショーのタイプにしてはロングランになったりで、逆に「過剰評価じゃないのか?」と世評を見もした。だから実際に見直したらどう思うんだろうとも思っていたのだ。実際、声優は専業声優には"聴"劣りする。作画も"良い"けれども、作画マニア垂涎と言ったレベルの表現ではない。全体のトーンが合ってる程度で前半と後半でもかなり違うし、キャラに至ってはキャラ原案の絵とは全然違う(笑)「それでこの評価?」と言われかねない。

 じゃあ何に自分が惹かれていたのかと思うのだ。

 記事を書き始める時、昨年できなかった、演出を考証するような記事を書くのも良いなぁと思っていた。公開当時は一回しか見ていないので確認ができなかったことも何度でも見られる。

 例えば最初の"野球"(笑)のシーン、真琴のアップで分かりにくいくらいジワジワとしたズームアップがある。このカメラワークがあると臨場感が何となくだがアップする。

 例えば、何度か出てくる"分かれ道"で功介が画面からはけて、しばらく真琴と千昭が見送ってからしゃべり出すシーン。(細田監督はシーンチェンジのために8秒間の間を持たせたらしいが)自分は画面から消えたら無くなってしまうのではなくて、十分離れたこと、画面外の状況を意識したした演出に思い、リアリティを感じていた。

 一見何気ないが、「やはりこの映画は細田ワールドと言って良い」と思った演出だ。他にも作品の性質もあるのだけど、得意の同ポジションを使った意識付けはもちろん、千昭が真琴に秘密を打ち明ける時間停止空間での絵のしりとり遊びも良い。

 坂道の踏切で泣き叫ぶ真琴に正体を明かした千昭。そこから入ってきた丸い物のが続き、それが赤い物に変わり、赤い服を着た少年のブランコが、揺れる振り子に変わり、振り子の揺れが水の流れに変わり、波紋を呼び、波紋が鳥の飛び立ちへ変わり空へと続く。

 あるいはその後の美術館から セミの抜け殻から始まって、押し花、向日葵、アリの巣へと続き、人混みへのつながり。

 見ていると、自然にこの流れの心地よさを感じ、この中で、千昭が過去に来て初めて触れた物、未来では失われた物への憧れや、もしかしたら、見ている自分たちに今の世界を再認識させられることで、千昭のやってきた世界を想像させる。そういったちょっと憎らしくも思う誘導が、自分たちが普段空気のように忘れている、大切なことを思い出させてくれる。

 普通なら気にとめないような処に気配りし、画面をフルに利用した作風、それが細田監督のいう「映画」らしさを成立させる要素なのだろう。

 DVDを見直し初めて、すでに最後まで知っているからか、最初の踏切事故のシーンでなぜかジワッと胸をつかまれてしまい、その後、見入ってしまった。

 テントウムシやプリンや桃や信号も、何となく入れたわけではないだろう。この意味ある記号の演出プランに完全にノせられてしまっている自分を感じた。

 そして、ありそうでなさそうなイマドキの高校生活。しかし、そこにある「下らないやりとり」やあの独特のオレ様感のような気持ちは、本当に「アホ」なんだけど、「有ったよねぇ」と微笑みながら思わせてくれる不思議な同化も感じる。大人になればなるほどそぎ落とさざる得ない、幼稚と言えば幼稚だが、あの無根拠な自信を含めて、一見、無駄な行為にはやはり"意味"があったんではないかと思い直させてくれる。

 恋愛に限らず、人はとっても大切な事や物や他人を享受しているときは、それに"終わり"が来ることを忘れている。ただ、そこにそれがある、あるいは居てくれるだけで良いのに、失う時になって思い出すのだ。だから「そうなる前に少し、周りを見渡してみませんか」といわれているような気がした。

 映画を鑑賞するというのは、演出家との知恵比べのような物かもしれない。

 それならば、私は多分、「負けた」のだ。この傑作に。細田監督に。

P.S. 限定版のおまけ映像によれば、エンディングの「ガーネット」はCMのデッドラインを延してまで待ったエンディングだそうだ。奥華子は本来エンディングのはずだった曲が千昭の歌になっていたので、改めて真琴の歌を発注されて、煮詰まってぎりぎりのとこだったらしいが、それだけの価値のある歌に出来上がったと思う。あの歌が無くてはこの映画は終われない。そういう意味ではアニソンらしいアニソンだなぁと思った。

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