映画「魍魎の匣」インプレッション
たぶん今年最後の映画インプレッション記事。
まず観る前に思っていたのはどうして続編をやることになったのかってところだ。
前作(とは言ってもつながりが薄いのだが)「姑獲鳥の夏」は興行的に成功したとはとても言えないはずだ。公開館数が少なかったのでそれを割り引いてもどうだったのかと思わせるような入り具合だった。それなのに今回は前作と同等以上のお金を掛けている節がある。それが解せないなぁと思いる。今回は公開館数の関係で前作より数字は残せるかも知れないが、それが良い結果になるかどうかは別だ。
とにかく「姑獲鳥の夏」は実相寺監督の演出の限界というか終わっていたことの再確認に行った映画になってしまった。思ったほど酷くはなかったのだがそれが逆に凡庸さを浮き立たせて、寂しさを感じさせる。原作が発表された時点でかつて無いほどの衝撃を与えてくれた作品であったこと、原田知世の起用など、個別に引っかかる要素があって過剰な期待があった所為か、「やっぱり映画化不可能な小説は不可能のままだった」という至極当たり前な結論を得たのだ。
映画「姑獲鳥の夏」インプレッションのエントリー
http://ja-bow.txt-nifty.com/netvalley/2005/07/post_2438.html
今回の印象もそれに似ている。
しかし、今回の「魍魎の匣」は前回よりはずっとマシだ。たぶん誰が観てもそう思う。たとえば前回の点数が完全に赤点(赤点というものが今も存在するのかどうかは知らないが・・・要するに落第点)だったとすれば可(優良可ものこってんのかなぁ?)くらいの水準にはある。
でもまぁ全く期待していなかった所為であることも明白なんだが。
そもそも原作を消化しているのかと言えば、全く消化できていないのは今作も同じ。当たり前だ。文字数とページ数では圧倒されてしまうこのシリーズは、要は文字だけだから出来るレトリックで進められているわけで、そこが映像化不可能だとか言われてる所以だ。
その部分の消化の仕方に関しては今作の方がうまく行っている。
ただし、うまく行っているだけで、それで良い映画になるわけではない。原作の交錯感を上手く利用して、短縮しているのだが、おそらくカットされたところにエクスキューズがあるはずの演出が所々に残されていて、何故この人物がこうなったのかがよく分からないところが多数あるのもかなり気になる。
たとえば終盤、匣館の中で敦子が"へべれけ"になるシーンは前後にそれほど意味がない。もうちょっと前後にチャンとした描写がないとなぁ。
あと今作の説明では、原作を読んでいない人には榎木津の"視えて"いるものが多分、理解できない。過去が見えているわけではなくって、「榎木津が見ている人の見たモノが映像だけ断片的に"視える"」と言うことは、繰り返し色んなパターンで説明しないと分かりづらいものだ。だからこそ豪放でぶっきらぼうな説明しかしない榎木津にこの能力があっても、それを本当に生かせるのは京極堂くらいしか居ないのだけれども。
それから、京極堂など主要キャストがあまり合っていない(前作とはキャラも変わった)のは今作も同じだが、今作は何故か結構許せてしまった。関口は前作の方があってると思う。最初こそイメージに合うかと思ったが後半がどうも・・・関口は原作でも唯一見る側の代弁が出来る人物であって、その辺が出ていなかったのは残念。
そもそも監督はずいぶん前だが「ガンヘッド」の監督だった。この作品は特撮オタクの中では評価というか価値観の分かれる映画だったと思うが、「映画」としてどうかと言えばたいていの人が首をかしげてうなってしまうような出来だった。従って全く期待していなかったので、今作はさすがにあの頃ほど酷くはないだけでも安心したところだ。
また、今作で一番と言うか唯一のほめられるのところは美術。これがなければ映画は最後まで保たなかったはずだ。上海撮影などを駆使した昭和20年代は無国籍風の空間だが、作品の雰囲気作りに一役買っている。予算がどれほど前作と違うのかは分からないが、池谷さんの美術センスが上手く働いている。最後の蛇足以外は。
それから、上海以外のロケでも、今回は中野の眩暈坂は明らかに郊外・・・いや山の中の坂だが、前作の「え?これが?」と思うような小さな眩暈坂よりはずっと良い。めまいがするのが体感できる。前作が舞台美術のようなセットになってしまったのは監督の趣味だろうが、今作のような表現の方がそれよりもやはり分かり易い。
そして終盤のキモである匣館は特撮ではおなじみの「首都圏外郭放水路庄和排水機場」と「大谷石地下採掘場跡」(原田監督の『ガンヘッド』でも使用されている。)を利用している。外がわのロケーションとデザインも上手く異様な感じを出していて良かった。あまりに使われているので新鮮さはないけれど、こういうところをCGだけでやり過ごさなかったのは良いと思う。特に採石場跡の方はヒーロー特撮と撮り方や装飾が違うだけで結構雰囲気出るものだなぁと思った。
良いところも悪いところもあった。がっかり感だけではなかったので、そういう意味では救いようのある映画だったと思う。
ただ、誰がこれを楽しむのかはやはり疑問だ。
原作を読んでいない人にはなんなのかよく分からない話になっているのではと懸念する。榎木津の"視える"ことのように、自分はもう知っているので、頭の中で都合良く解釈しているよう気がするのだ。だからといって原作のファンのウチ、冒頭の二人の美少女のやりとりが好きな人には、役者の美少女っぽさや演技力がたぶん興味を殺ぐ。
また、原作を読んでいるときは巧みな誘導に知らぬうちに観ている方も箱に取り憑かれてしまうのだが、そういったのめり込み感は一切無い。従って最後のオチが何故幸せなのかがよく分からない。要は一時的に見ている側が久保や阿部になれないとカタルシスが得られないのだが、そういったことが無いので原作を知らない人には、ただの出来の悪いミステリーにしか成らない。
すると、原作を知っていて適度にスイッチが入るような人でないとこれを楽しめないのでは?と思うのだ。
最後のオチで幸せになれないのは最大の喪失だと思う。
黒木瞳目当てで来た人も目の小じわが気になって仕方なかっただろうし(笑)
エンディングはテーマでつないで東京事変の曲につなぐのだが、音楽的に脈絡がないことこの上無い。詞は別として、曲はいつもの椎名林檎なので、・・・最近の日本映画らしいところ。こういうのはどちらのファンにも不幸だ。
なんだかまとめようがないなぁ。
もっとも映像化になじむ「魍魎の匣」ですらこの状況では、よしんばヒットしたとしても次作以降は厳しい。「狂骨」はまだしも「鉄鼠」なんぞ絵面的にも男ばっかり出てきてどうなんだろうねぇ。それでなくともこの後どんどん長くなっていく傾向があるからなぁ。
私はこの記事描いて後ひとしきり知り合いに話したらそれで元は取ったと思うんだけどね。
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