「ノーカントリー」インプレッション
劇場で予告を観なければきっと観なかっただろうアカデミー賞4部門制覇の映画だ。
見て思ったのはまず、いかにもアカデミー賞受賞作らしい作品だったってことだ。
正直言って紹介するのに困る作品だし、傑作か否かは人によって大きく分かれるだろう。しかし、考えさせられる話なのだ。何度反芻しても答えを得ることが出来ないかも知れないほど、考えさせられる。そこがこの作品の醍醐味だと思う。それに当たらない人は本当にこの映画に向いていないのだろう。
それに、この映画の背景にある国境付近、アメリカ西部の・・・現代のアメリカ西部の無法地帯っぷりやベトナム帰還兵、は僕らには身につまされる問題ではないから、そこのところが分かりづらいというのもあるだろう。
ただ、ミーハーにも私はこの映画を観て憑かれてしまった(笑)シガー歩きがしたくなっちゃったと言うと分かってもらえるかな?その手の独特の中毒性がある。
カミングスーンだけ観ていると「ハンニバルシリーズ」や「セブン」のような「サイコホラー」にも見えるし、単なる追いつ追われつの猟奇サスペンス物のようにも見える。そのため「ノーカントリー」がどういう意味なのかがよく分からなかったのだが、それは開始後すぐに氷解した。「NO COUTRY FOR OLD MEN」が原題である。アイルランドの詩からの引用なのだそうだが、その言葉から「年老いた人間にすむ場所がない」ことくらいはすぐに察することは出来た。
だから最初っからトミー・リー・ジョーンズ扮する老保安官の愚痴めいた嘆きを聞き続ける羽目になるのだが。
しかし、見続けるとその言葉自身がメタファーになり三種類の「NO COUNTRY」な人間の話に成っていることにも気づかされる。保安官エド・トム・ベルはもとより、逃げる男モスは、大金を手にしてしまったことにより、追われて追われて安住する場所を得られない。追う男シガーは己の規範にのみ縛られていて、この「国」には属さない謎の男だ。属した途端に彼の存在は逆に消される。
アントン・シガーは"心ない"殺人者だ。いつからやっているのか独特のルールだけに則って動き、それ故に命を助けてることもある(もとより理不尽な難癖で命を脅かすのだが)彼の正体は最後まで不明。人でありながら劇中では「ゴースト」と呼ばれていたが、怪獣や自然災害のような物と考えた方が納得がいくような存在に仕立て上がっている。
彼も一種のサイコキラーだと言えばそう思うが、その正体や出自などを掘り下げるのが本作の魅力ではない。
3種類の人間たちを追っていく中で物語は終結する。しかし、普通の人なら結論は全く得られないばかりか、かなり強い投げっぱなし感を感じるラストだろう。しかし、実際は鑑賞後、何度も何度も物語の中で問われたことに対して、考えさせる形で、我々に色々なことを問いかけてくれる。
鑑賞中はサスペンス展開が飽きることなく観させてくれるからその辺を危惧することはない。ただ、単なるアクションムービーのような物を想像していると、最後に放り出されて、「ええっ?」と思うのではないかと思った。
たぶん切り口でいくつもの答えを得ることが出来る映画だ。観て帰ってくるまでにこんなに考えたのは久しぶりだ。しばらくこのことで頭がいっぱいになってしまいそうなほどだ。
先週観た「バンテージポイント」は観ている間にパズル解法を探し、猛烈に頭を回転させなければいけなかったが、こいつは観た後に来る。
そういう意味では疲れて疲れて、ついでにシガーに憑かれた映画だった。
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