「グラン・トリノ」インプレッション
ボキャブラリーが少なくて恥ずかしいが「良い映画」だ。
クリント・イーストウッドという役者はそんなに好きではなかったけれども、クリント・イーストウッドと言う監督はここ最近外れの無い作品を提供してくれる。
まず、この映画がアカデミー賞のノミネートにも上がらなかったのは少しばかり不思議だ。
1億ドルは稼いだくらいの観客の指示はあるのだし、これほど色々、端から見たアメリカを象徴するような映画もないだろうと思う。
それに少し付け加えるとここ最近の話の中では非常にヒロイックな話なのだ。
栄光のアメリカを象徴する主人公ウォレットは有色人種を毛嫌いする白人だが、実はその彼もアメリカでは移民の一人に過ぎない。友人もアイルランド人だったり、イタリア人だったり、悪態はついているが実はとても仲が良い。彼らが持っているのは「アメリカの男」というキーワードだ。
彼らがアメリカのメタファーだ。
長い間に勤めていた自動車産業は廃れ、同時にいつの間にか黒人やアジアの有色人種が取り巻いている。ただ、それは白人の流入だった物が置き換わっただけで、人の中の良いもの悪いものはそんな物では測れないといったことや、頑固に成らざる得ない境遇が一方でもっとも近くにいて欲しい者を遠ざけてしまった事を語る。
ところが妻を失ってすぐに偶然、知りあった(嫌っていたはずの有色人種の)タオに「アメリカの男」を教えることで、失った物を死ぬ前に取り戻そうとして、生き甲斐を見出していく。
この話は昨年の「ノーカントリー」の様な移民の国アメリカの病状を示しながら、世界に置かれたアメリカの一つの終焉について描いていると感じるのは穿ちすぎだろうか?
(土地が離れているからだろうが)「ノーカントリー」の様な「老いたものにはどこにも住み場がないアメリカ」とは切り口や見解が少し違っている。
この主役はやはりクリント・イーストウッドこそが相応しい。彼こそが古い良きアメリカの象徴であるからだ。ただ単に自分がやりたいと言うことだけでなく、見事なキャスティングと見事な演技だ。
そうでなくては最後の復讐のシークエンスはキマらない。
そして何より保守主義者で知られる彼がこのような話を作れるというのが、本当に不思議であり、この映画をエンターテーメントとして受け入れ、作らせ公開できるアメリカ映画の奥深さも感じ、そこに感動した。
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