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2009.11.08

「わたし出すわ」インプレッション

 この映画を最初に知ったときに感じたミステリー色の強さは実際はなく、その後、映像から感じていた少し寒々しい感じだけは確かにあったものの、見終わるとなんと言うこともない日常に、少し感謝したくなる映画だった。

 最後まで結局、小雪の演じるマヤの本当の日常は分からないし、全体的に作り手に都合の良いことばかりが起こる話だ。けど何かに感謝したくなる。

 主人公はマヤだが、むしろ彼女は狂言回しで、その周辺の人たちにお金が転がり込むことで人生が変わる話のオムニバスだと思えば、この映画の構造はよく分かる。

 「マヤ」の存在は狂言回しでありマクガフィン的なのだ。その仕組みが狙った物であることは「箱庭」の話でメタファーとして提示される。

 とすればマヤと同じ神の視点を手に入れないとこの映画は楽しめないのだ。

 謎めくマヤを小雪は上手く演じている。本当の彼女がどうなのか知るよしもないのだが、こういうキャラクターが見事にはまっている。化粧っ気はないけれども、見るからに綺麗な感じが残るのも意味がある。

 それ以外にもメインキャストの高校時代の友人たちは本当に演技達者な感じで良かった。

 最初の被害者というか路面電車運転手の道上は「セイザーX」に出演していた井坂俊哉。その頃とは比べものにならないほど演技に幅がある。妻に対するとても難しい憤りの表現は良い味だった。

 平場を小池栄子は上手いというより心得た演技だ。あの普通っぽさがたまらなく良い。会長職に旦那をつけるお金は彼女が支出したんだね。

 この映画はキャスティングがうまくその期待に演技者が応えている。

 映像は少しロング多い。いかにも映画的な感じの画面構成だがこの辺も「箱庭」感の一助となっているのかも。

 最後では死んでしまった人も含めて一定の救済があるのだけれども、その都合の良さを素直に受け取れたかどうかでこの映画の価値は決まるだろう。

 個人的には非常に心地よく映画館を後して、少し日常に感謝した。

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