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2012.12.24

「レ・ミゼラブル」インプレッション

 小学生の時に課題図書だったかで(言葉だけ聞いてアーム・ジョーという人の名だと思ったのは内緒)読み、そして初めてプロの舞台劇を見た「ああ無情」を原作にしたミュージカルの映画化だ。

 舞台劇の「ああ無情」のジャン・バルジャンはウルトラセブンのキリヤマ隊長役で特撮ファンにはなじみのある中山昭二で、何故に地方の小学校周りの演劇をやっておられたのかは不明だが、男子には絶大な知名度だったので、挨拶があったときに色めきたったのを覚えている。

 もっとも今回の映画とは趣が違い低予算でコミカルなシーンが多い、良い意味での低年齢層向けの演劇だった。

 さて今回の映画だ。
 演劇的場面転換を下敷きにしているので時間の流れ方など原作とも状況が違うのだが、ミュージカルの舞台装置とメイクで見せている部分を映画は作り込んでいて、なおかつ同録の歌で進めていく舞台を踏襲した話で贅沢な作りになっている。

 正直、歌だけでやれるの?とか思っていた。それから古くさくはないか?と思っていたが、さすがにロングランの下敷きがあり、杞憂だった。

 それにこのテーマは本当に普遍的なんだと思わされた。100年以上も前の原作なのに。

 この世界には正義、絶対的な正義は存在しない。同時に絶対的な悪もかかれていない。コソ泥の宿屋夫妻の様な悪を悪としてやっている者はいるが、巨大な悪は物語上は見えない。ただ重苦しい世界観にゆだねられていて、別にそれに立ち向かうようなヒーロー物ではないのだ。

 個人としては絶望的な刑期を経て、逃亡しながら生きていく彼の周りに、勝ち取ったはずの自由が実現しないフランス革命後の世界で生きていくそれぞれの信じる正義に翻弄されている人々が現れて、その中で怒りや葛藤を感じながら彼が自分の生きている意味をつかもうとする姿が心を打つ。

 ジャン・バルジャンに投げかけられる問いはすべて観客への問いだ。

 なぜ生きる、どう生きる。

 局面に居合わせた自分はどうするのか?すでに知っているのにハラハラとする見事な演出だった。

 そして、彼は救われ、聖者といわれ、彼の地で自由へ向けての革命の歌を高らかに歌い上げるのだが、結局は残された世界は大きな変革を迎えるにはしばらく時間を要することも我々に少し思い出させてくれる。

 ジャン・バルジャンは彼の出来る範囲で出来る限りの力を使って、守るべき者を守った。今の僕らの世界でも重苦しい空気が流れ始めているけど、そこにわかりやすい悪はいないはずだ。数年前からハリウッド映画も宇宙人やらに頼らないとドンパチヒーロー映画が作れなくなっている。

 目の前の小さなことにしか対応できないのもまた、見ている自分たちと近い。でもそうやって一つ一つ片付けていかないと、何も始まらないなぁと思いながらエンドロールを見ていた。

 そしてこの映画のヒーロー、ジャン・バルジャンが聖者となったのは赦されて赦したからだということに、とても意味深いものがあるように思った。

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